一際長かった2020年の梅雨。
全国各地で大雨による甚大な被害が発生しました。次なるターゲットを白山に定めたまでは良かったものの、岐阜県側からの平瀬道登山口までのルートも大雨の影響により通行止めとなっていたのです。
よって愛知県から向かうわたしは最もポピュラーな別当出合をスタート地点とするルートを選択することとしました。
ところで、ご興味の有無に関わらず、ここでわたしの登山歴とこれまでの活動履歴をざっくり振り返ってみます。
登山をはじめたのが今年の2月。
岐阜城が鎮座する金華山がはじめての山でした。それから百々ヶ峰や池田山といった岐阜県内の低山をいくつか経験し、百名山のひとつ伊吹山に挑戦したのが4月上旬。
その後、定期的に金華山でトレーニングを行い、鈴鹿セブンマウンテンの御在所岳、竜ヶ岳を登ってきたのでした。つまりわたしにとって標高2702mを誇る白山は過去最高難易度の山なのです。
果たしてどうなることやら、、、
準備と下調べ
まずは先人たちのありがたい情報を頼りに登山ルートを確認。webサイトで国土地理院の地図をプリントアウトし、ルートを色塗りしておきます。もちろん登山アプリのGPSも併用する予定。
消費されるカロリーを算出し、その上で少し余裕を持った行動食も用意しました。
このためにザックまで新調。
ミレーのサースフェー60Lです。
- 8:30夜勤を終え帰宅してシャワー
- 9:00自宅を出発
- 12:00別当出合着
- 17:00白山室堂チェックイン
- 4:00室堂出発
- 7:00御前峰~お池巡り
- 11:00下山完了
さて、どうなることやら。
いざ当日
2020年8月4日火曜日、ほぼ予定通りの行程を経て、別当出合に到着しました。ここで一つ目の誤算が。平日だというのに約200台とされる駐車スペースがほぼ満車なのです。
シーズン真っ盛りの白山人気をなめていました。しかも枠も通路も狭く何度も何度も切り返してようやく駐車完了。この時点でもうすでにぐったり。
しかし一服している余裕はありません。これまで経験したことのない約8~9kgのザックを背負い駐車場を後にします。自衛隊の車両が目立っていますね。訓練として山登りをされているのでしょうか。
登山届とトイレを済ませたら、いよいよスタート。
登山口の手前では職員の方が登山者の体温チェックをされていました。山頂の室堂に出入りする際はマスクか防止に体温チェック済のシールを貼るよう指示されます。
かなり徹底されていますね。
登りは砂防新道から。
長い吊り橋を渡っていきます。
ようやくここから山登りって雰囲気がしてきました。この時点で標高1200m以上あるはずなんですが、かなり暑い。ゆっくり歩いていても汗は止まりません。
約40分ほど経過した頃だったでしょうか。これまで経験したこともない倦怠感に突如として襲われたのでした。
たった一歩踏み出すのもつらい、しんどい。
スケジュールがタイトなだけに気持ちだけが焦ります。
なんだこれは、、、
まさかこれが噂のシャリバテ!?
いやぁ、それを警戒して散々カロリー計算してきたのに、、、
って、あれ?
そう言えばここまで口にしてきたものって、、、
夜勤中は何も口にせず、自宅出発後にソーセージの入った惣菜パンをひとつとツナマヨおにぎりを運転中に食べただけ。言うなれば携行缶いっぱいに燃料を積んだものの、出発前に車両本体への給油を忘れているような状態。
とんだ大馬鹿野郎がいたものです。
一体どこのどいつだ。
朦朧とする意識のなかで慌ててウエストベルトのポケットに忍ばせたミニ羊かんを取り出してパクリ。ゆっくり歩きながらモグモグモグ。
ゲームだったらここでキュイーンとHPが微量回復するのでしょうが、残念ながらここは別の世界線。
きっと徐々に回復するはずだ。
そう信じて歯を食いしばって歩みを進めます。
幸いここまではキツイ急登もなく、歩きやすい道だったので助かりました。
スタートから約1時間かけて最初のチェックポイント、中飯場に到着。
一応、予定通りなので胸を撫で下ろします。日陰になっているベンチに腰をおろし、シャケおにぎりを素早くチャージ。頼む、次のチェックポイント甚之助避難小屋まで連れてってくれ。
そしたら最悪、そこで今晩は泊まることもできる。その場合は申し訳ないけど、室堂に宿泊キャンセルの連絡をせねばなるまい。
そうこうしていると自衛官の一団が下山されてきました。ここでしばしの休憩をされるご様子。大変お疲れの様ですが、無理もありません。
とても登山向きとは言えないゴワゴワの迷彩服上下をしっかりと着込んでみえるのだから。暑いだろうに、大変だ。
などと人様の心配をしている余裕など今のわたしにはないのです。
ザックを背負いなおし、再び行動を開始。
くぅ、、、荷物が肩が食い込む。
痛い、、、
実はこのザック、実戦投入するのは今回が初。
つまりぶっつけ本番なのです。
室堂までこの痛みに耐えられるだろうか。
明日の下山まではどうか、、、
この先の長い行程を思うと暗澹たる気持ちに。
とりあえず、あと一時間。
この一時間が正念場だ。
時折立ち止まながら、岩に腰掛けながら、騙しだまし足を一歩ずつ踏み出しますが、心が追い付かない。時間経過と共に肩の悲鳴がますます大きくなっていきます。
う~ん、、、これは苦行だ。
とてもじゃないけど山の景色を楽しんで歩けるコンディションじゃない。
幸いにしてひとり登山。
引き返すのも自由。
無理をして他人様にご迷惑をかける前にここは退こう。
一睡もせず、わざわざ3時間近くもドライブして石川県くんだりまで来たのに、、、誰も近くにいないことを確認してくるりと踵を返すと、あたかも下山終盤でござい、みたいな顔をして歩きだします。
明らかにわたしよりもお年を召してらっしゃるパイセン方が疲労感の中にも充足感に満ちた表情で山を下っていくのに対し、ほぼ山の玄関口で心の折れたエンジェルことわたし。
登山警察がいれば、きっと偽装登頂容疑で現行犯逮捕されていたかもしれません。
しんどいことに変わりはありませんが、下山は重力を利用して惰性でなんとなくいけそうな気配。
さっき見たばかりの中飯場のトイレ棟が見えてきました。
なんの感慨もわきません。
おそらく山小屋の荷上げなのでしょう、背負子に発泡スチロールを積み上げた男性の姿が水場に見えました。
スゴイなぁ、素直に脱帽。
ご苦労様です。
ええ、なんですか?こちらは尻尾を巻いて逃げ帰るところです。
やはり集中力が途切れているからでしょうか。乾いた路面だったのにも関わらず、わずかな下山中に計3回も尻餅をついてしまいました。
ただ皮肉なもので、散々苦しめられた大きなザックがクッションの役割をはたし、強打することはありませんでした。
14時45分、下山完了。
這うほうの体で車にたどり着くと駐車場は来たときよりも幾分空いていました。きっと皆さん、それぞれの山行を楽しまれたのでしょう。
蒸し風呂状態の車内に忌々しいザックを放り込み、靴を履き替えます。
せめてこの負け汁を洗い流して帰りたいな。
麓の日帰り温泉にナビをセットして。
さあ、せめて風呂くらいは満喫して、、、
えっ、、、
こうしてわたしの小さな旅は終わりを告げたのでした。
おしまい。



